S**B
愛を知るまでは死ねないのが私たちなのだ
物語のは梶と三千子の夜の街中でのやりとりから始まる。そこで梶は三千子の愛を受け入れず、別れを切り出してしまう。しかし労務管理官として満州にある中国人捕虜の強制労働施設への配属に当たり、梶は三千子と結婚して連れて行くことを決意する。三千子は梶に愛を与え続ける存在であり、常に梶の身を案じ、時には拗ねたり甘えたり、二人の幸福な生活を夢見続ける。しかし梶はそんな三千子の想いに応える余裕がない程の厳しい現実を日々突きつけられる。どんな境遇に置かれても変わらぬ三千子の想いは梶の心をほぐし、いつしか難局を乗り越える力の源泉となってゆく。正直者が馬鹿を見るのはいつの時代も変わらないのかもしれないが、梶も御多分に洩れず不遇な扱いを受け始め、やがて厄介払いのように戦地への召集がかかる。地位も家族からも切り離された梶をこれでもかと苦難が襲う。もはや正気を保つことすら難しいと思うような状況の中で、梶は三千子への想いを募らせていく。これは戦争を通して描かれた壮大な愛の抒情詩だと思う。物語の冒頭とはまるで違う、最後の最後まで三千子を求めてひたすらに彷徨い続ける梶の姿がただただ胸を打つ。物語は最後まで梶を中心として描かれ、最後の最後まで救いはないバッドエンドな映画だ。しかし梶は不幸だろうか?本当の愛を知ることもなく、上手く世の中を渡っていく人間の方が本当に幸せだろうか?人間の條件とは何か?何のために私たちは生まれてきたのか?あなたはこのどうしようもない世界の群像劇で、一体誰に共感したのか?戦争を通して普遍的なテーマを投げかける世紀の傑作。小林正樹がこの後撮った「切腹」も合わせて観てほしい。仲代達矢は本当に素晴らしい俳優さんです。あと、いつも悲劇の石濱朗も。
A**8
絶対に価値ある見るべき9時間31分
寡聞にして、というか恥ずかしながらこの映画の存在を知らなかったんですが、Criterion Collectionにハズレなしという事実と、日本で発売されているものと比べた断然なお値打ち感、それとサイトの予告編を観て購入という単純さでしか無かったものの、見始めたら期待値を遥かに超える大傑作で驚いてしまった。モダンな構図とその映像の素晴らしさとグイグイ引き込むストーリー展開、チープさひとつ感じさせない作り込まれた美術とそのロケーションのスケールには驚愕(中盤の戦闘シーンはCG表現では出し得ない圧倒的リアリティー)する他なく、仲代達矢を始めとした役者陣の圧倒的な演技力と新珠美千代の引き込まれるような儚い存在感と美しさ、そして主人公梶の絶対に折れない気骨さに絶対的に惚れ、何よりも全編通して日本が起こした戦争を徹底的に批判するその姿勢には深く感服した。掛け値なしで日本映画の最高峰と断言したい。画質は全く申し分ないクオリティーなので、日本版ブルーレイには申し訳ないけど、迷っている方はこのCriterion版で購入を決めましょう。
つ**グ
ベスト・バイ優良品です!
TVで連続ドラマとして見たのが五味川純平作『人間の条件』の初めでした。学生時代に池袋の人生座の、そこが無くなってから文芸座での、それぞれのオールナイトで見た小林正樹監督作品。それからサラリーマンになりたての頃、通勤電車の中で読んだ原作。自分の『人間の条件』遍歴はその後、VHSビデオのレンタルと続きました。見るたび、読むたび、自分は主人公「梶」のような人間として生きたい、生きなければと思うのでした。果たしてそのように生きることが出来たろうか? それほど長くもなかったここまでの我が人生の歩みを振り返れば、そこには人間としての恥ずかしさだけが連鎖しているのだろうとばかりボンヤリ思える。そしていま、アメリカ製のブルーレイディスクを手にして、自宅で丸一日をかけて見直している。暮色の深まりゆくわが部屋の中で、『梶』が、ああ、『梶さん』が雪の中に埋められてゆく。もう涙で画面が見えない。そう、『梶』さん、僕も、もうすぐあなたのそばへ行けるだろう。僕は日本人に生まれてしまったけれど、日本と日本人としてではなく、人間として最期をまっとう出来ればいいと思う。それまで自分は静かに誰をも傷つけることなく生きられるだけ生きていようと思う。そんな気にさせてくれるベストバイ商品です。
Trustpilot
2 weeks ago
5 days ago